『春の花束』 by 葉八水 様

全てが終わった。
完全な夜叉衆の解散宣言。
「だけど、オレたちには生きる義務がある」
と高耶が言った。直江に背を支えられながら。
「オレたちは闇戦国が終結した今、今生で終えなければならない。その時に後悔しない様、宿体の分も、今まで出会った人たちの分も 生きろ」

強く言い放った景虎が眩しかった。
だがな、今おまえの背中にいるそいつがいなかったら同じ事言えたか?
考えてから馬鹿な事だと笑った。
今更だ。
しかし、そんな絶対的な誰かがいない自分は生きる事がそんな大層な事だとは思えない。
ただ生まれて土に還る、輪廻転生の繰り返し。
自分たちは少しそれに逆らった異形。
ただ、それだけだ。
だから俺は軽いんだ・・・。
自分でもわかってる。
だからといって彼等の様に絶対的な誰かが欲しいとは思わない。


「おまえも真面目に生きてみたらどうだ?千秋」
高耶の鋭い瞳で射抜かれる。

色部は宿体が医師免許を持っていたので、病院務めをしている。以前できなかった事にも立ち向かう為に。
直江は兄の不動産会社と実家の寺の掛け持ちで忙しくしている。
高耶は大学生として小さい頃の夢だった家裁の調査官を目指している。
綾子は、なぜか女性の立場について京都の大学で講義に借り出されている。
千秋だけが中ぶらりんなのだ。

「おまえ、教師でもやったら?」
「はぁ?」
唐突に思いついた様に高耶が言うが、千秋は眉をゆがめた。
「あのな〜」
「熊本の時、結構様になってたぜ。そうだ、おまえ教師んなれ」
「んな勝手に決めんなっ」
そこへ来訪のベルがなる。
「色部さん」
「長秀、これはおまえにだ」
色部は、手に小さなマーガレットのブーケを持っていた。
「は?」
「今日は友人の誕生日だといったら患者がくれたんだよ」
「・・・」
「このくらいのかわいい女の子だったぞ」
色部が自分の太もも辺りに手をやり、ジェスチャーで背の高さを伝える。
「・・・」
千秋の性格からして、そんな可愛いレディーからの贈り物を貰わないわけにはいかなかった。渋々色部の手から受け取った。
「忘れてた。千秋これはオレからだ!」
「!」
今度は高耶が隣の部屋からガサゴソと何かを持ってきた。
「チュウリップゥ?」
10本程のチューリップが綺麗にラッピングされていた。
「オレが育てたんだ絶対枯らすなよ」
「んな無茶なっ!」
千秋が叫びを上げた所に、次の来訪者がやって来た。
「はぁ〜い」
「げ、晴家」
「げとは何よ。酒持ってきてやったのに」
「それからこれ」
綾子は片手に一升瓶を、もう片手には桜の木の枝を持っていた。
「どうしたんだ?」
千秋の声も引きつり出した。
「あんたの為に手折ってきてやったのよ」
それを聞いてあんぐりと口を開けてしまう。どう考えても手で折るには太すぎる花付きのいい枝・・・。
「こんの怪力がぁ〜」
誰が怪力ですって〜!と二人のじゃれ合いが始まる。

ふ〜、と高耶がため息をつく。それは呆れ返ったとかではなく、とても幸せな―――。
「直江は?」
「あぁ、早く帰って来いとは言ったんだがな」
と高耶は少し表情を暗くする。
「旦那がいなくて寂しいのか〜」
と千秋がすかさず茶化しに入る。
「そんなんじゃないっ!!もう先に始めるぞっ」
照れ隠しなのか、少し拗ねたような顔をして。
今から千秋の誕生日パーティーが始まる。

おまえらを見守る為に生きるっていうのもありだよな。
千秋は両手いっぱいに花を抱えて。
幸せそうに一人微笑んだ。

END




『♪おまけ』


高耶に今日は千秋の誕生日だから皆で祝う。当然祝いを持ってこい。
と言われ、直江は渋々プレゼントを用意する事になる。
せっかく仕事も一段落して二人で過ごせると思っていたのに。
千秋の誕生日を変更させてやりたいと無茶な事を思いながらも、たまにはこうやって皆で集まるのもいいか、と顔が緩む。
あの人の楽しそうな顔が目に浮かぶ。
直江はタクシーを拾うと、行きつけの花屋で用意した黄色いバラの花束を抱えて乗り込んだ。
「お客さん。誰かのお祝いですか?」
運転手が尋ねてきた。
「古い友人の誕生日でね」
あまり嬉しくなさそうに答える直江に運転手は静かに微笑んだ。
それから会話がなかったが、直江は運転手の黒髪が気になった。とても艶やかで・・・。あの人も少しはのばしてくれればな、と無理な事を想像しては微笑んだ。
「幸せそうですな」
運転手が赤い艶やかな唇でそう言った。
「えぇ」
そう直江が答えるとタクシーは弧を描き急ブレーキを掛けながらドアを 開けたので、直江は車外に放り出された。
「なっ!」
直江はうまい具合に体を庇い着地したので、怪我はなかったが、突然の出来事に緊張間がはしる。
去りぎわのタクシーから運転手の顔が覗く。
「四月馬鹿」
赤い唇が嫌味なほど鮮やかに笑う。
走り去った車を直江は茫然と見送った。
なにもエイプリルフールだからって、こんな検討違いの場所に降ろされるなんて・・・。
しかも、あの顔。帽子と長い髪に阻まれてあまり見えなかったが、 高坂じゃなかったか?
「おのれ〜、高坂〜っ!!」
人通りの少ない公共交通も発達してない場所に残された大きな花束を持った直江が、直江抜きで楽しそうに過ごしてる高耶の元にたどり着くのは日も暮れた頃となる。


END




『not〜出会えなかった喜びたちへ』様の「3000」を踏みキリリクで頂きましたvv
「幸せな千秋♪」
と、お願いしたところこの小説を頂きました〜♪
今の時期に、幸せなその後!!
ちょっぴり、涙が出ます…。うるうる;;
しかも、おまけがクリティカルヒットです〜vv 
大笑いさせて頂きました(^o^)丿
気付けよ、直江ーーーッ!!
高坂のドライブテクニックに、乾杯♪(…完敗??)
高坂と直江の会話って良いですよね♪

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