Writing by しろわに 様
風が強い。盛りを過ぎた桜の花びらが音もなく舞い落ちていく。
優しい春の日差しの中で、高耶は魅入られたように桜を見つめていた。
「……もう見頃は過ぎてしまったようですね。ちょっと残念ですが……」
直江がそう言うと、高耶は首を振った。
「ううん、綺麗だよ……花びらがこんなに舞って……」
たしかに、見事なほどの乱舞だった。
高耶と直江以外、だれもいない。
二人はしばらく声もなくただその光景を見つめた。
「……もう、一年経つんだな……」
高耶がぽつりとそう言った。
……あの日も、高耶は桜の下にいた。やはり桜の花びらが舞っていた。
直江は傍らの高耶を見る。
高耶は静かに微笑んでいた。その瞳はかつての孤独の翳りは見られなかった。
「今日は記念日ですね。氏政さんに感謝しないといけませんね」
高耶はそう言われて、嬉しそうに笑った。
「うん、氏照兄さんには秘密な。……今日の服、氏政兄さんが見立ててくれたんだ」
直江が高耶に会うのは、実は久しぶりだった。
高耶は、週末には北条の家へと帰ることになった。直江のほうはと言えば、氏照には「いつまでも療養はないだろう、管理人を雇ったから」と、別荘を追い出されていた。
だが、その後、驚いたことに氏政が直江の住まいまでやってきて、謝っていった。……氏政は、直江と高耶が恋人同士なのは氏照も承知しているのだろうと思っていて、ふとした時に話題に乗せたのだが、氏照はただの友人だと思っていたらしい。まあ、無理もない。
氏政は、どうやら今まで高耶に冷たくした分、どんなことでもできるなら高耶の望むことをかなえてやりたい、と思っているようだった。それが自分たちのような世間から外れているような関係でも。
氏照のほうは、そうはいかないようだった。母がおらず、父親も若くして死んでしまい、長兄が気にかけていない弟を幸福にするのが自身の責任と思っているようなところがあるのだ。
「その服、すごく似合っていますよ」
直江が誉めると、高耶はありがと、と言って照れたように下を向いた。
たしかにその服は高耶によく似合っていた。いつもの服は多くが氏照の見立てなのか、どちらかというと可愛らしいというか、若者らしい服が多かったが、氏政の選んだというその服は上品で洗練されていて、高耶の凛然とした雰囲気を引き立たせ、いつもより大人っぽく見えた。
「……高耶さん、戻って休みましょうか。お茶を淹れて。お団子もありますよ」
お団子、と言われて高耶は顔を上げた。
「……なんかその言い方じゃ、花より団子、オレが食欲魔人みたいじゃないか……」
ちょっと怒ったように口を尖らせる。そのしぐさを見れば、やはりまだ可愛らしいとなってしまうが、直江はその唇につと指を伸ばした。
「……高耶さん……」
直江が囁くと、高耶はそのまま目を瞑った。
そっと唇を触れ合わせ、直江は高耶の髪の毛を梳いた。
「会いたかったです、高耶さん」
そう耳元で囁くと、高耶はうっすらと目を開けた。
「オレも……会いたかった……」
かすかに囁くような声でそう返され、直江はこみ上げる愛しさのままに口付けを繰り返した。
「……戻りましょう」
自分の声が情欲に掠れているような、そんな気がした。
仰木の別荘は度々管理のものが手を入れているため、いつでも使えるようになっていた。ここに来るのは久しぶりだったが、物の配置などは変わっていない。
直江は自分を落ち着かせるために、高耶に気付かれないように深呼吸した。
お茶を淹れるために、冷蔵庫に入れられていたミネラルウォーターをやかんにいれて、火にかける。
買ってきた団子は、おいしいと姉から聞いて用意した三色の花見団子だった。とりあえず皿にとってみる。二人で五本は多すぎるような気もしたが、高耶が三本くらい食べるだろうと用意した。
高耶は久しぶりの別荘のソファーの上で、クッションを転がしていた。
お湯が沸いたので、お茶を丁寧に淹れる。わざわざ持ってきたお茶は馥郁たる香りで、直江も一安心した。
「さ、どうぞ」
高耶はそう勧められて、うん、と頷いてお茶を一口飲み、ほ、と溜息をついた。
「おいしい……。ありがと、直江」
そう言って微笑む。だが、その微笑がどことなく淋しげな気がして、直江は戸惑った。
どうかしたのか問い掛けたかったが、高耶が答えるとは思えなかった。いつもどちらかといえば悩みを一人で抱え込むきらいがある高耶だ。
「あ、おいしいな、これ。わざわざ買ってきてくれたんだ」
ふわ、と瞳を和ませて高耶が団子を食べている。
「高耶さんなら三本くらい食べられるでしょう?私は一本でも良かったのですが、四本で買うのも気が引けてしまって。好きなだけ食べてくださいね」
高耶がまた笑った。
その瞳を見て、直江は思わず高耶の頬に手を差し伸べた。
「……なにか気になることでもあるんですか?私には話せないこと?」
ゆっくりと高耶の頬を撫でて、あくまでもそっと問うと、高耶は直江の手に自分の掌を重ねた。
「なおえ……」
そう呟いて、目を閉じる。
「お前の手だな……」
わずかに開かれた唇から、かすかな吐息が漏れた。
高耶は直江の手に触れたまま、夢みたいだ、とそう言った。
「……みんな優しくて、北条の家に行ったら兄さんたちが二人とも『お帰り』って言ってくれて……仰木のじいさんが死んで、一人だって、そう……思ってたのに、兄さんたちが優しいから……」
「……優しいから、不安?」
高耶は無言で頷いた。
……氏照の無償であろう気配りでも、高耶には不安なのか、と直江はその細い身体を抱き寄せた。
「……なおえも、いつも優しいから……電話でも、いつもオレに気を使ってばかりでさ、自分のイヤだったこととか、ちっとも話さないで、オレのことばっかりだし……でも、オレ……そんなにみんなに気を配ってもらえるような人間じゃ……」
小さな声で、そう言葉を繋ぐ。
その高耶のまぶたに、直江は静かに口付けた。
「私のことも、夢みたいだと?」
「だって……そんな都合のいいこと、あるわけない、って……。氏政兄さんが優しく笑って、氏照兄さんからお小言もらって、電話したら直江がいつでも話をしてくれて、なんて……」
直江は最近の高耶の笑顔を思い出す。幸福そうな、だが、奥底になにかを湛えたような。……それは、信じきれない高耶のかすかな戸惑いと、そしておそれだったのかと今にして思い当たる。
高耶の髪の毛を梳く。さらさらと指の間を滑り落ちていくその感触。
たしかにここに自分がいると伝えたくて、直江はもう一度高耶の唇に触れた。
「……高耶さん……私はここにいますよ……。みんな高耶さんが好きだから、大切にしたいんです。不安に思うことなんてありませんよ」
高耶がおののきを潜めたような瞳で直江を見上げる。
「……信じられないなら、信じさせてあげる。……私がどのくらい高耶さんを必要としているのか……」
低い声で囁くと、高耶は直江をじっと見つめた。
目を閉じて、と囁くと、高耶は素直にまぶたを閉じ、すこしだけ上向いた。その顎に手をかける。さっきまでのキスとは違う、本気のキス。
口の中を擽るように、そっと舌をうごめかす。驚かせないように、最初は上あごのあたりを探るような動きだったが、高耶の舌がおずおずと直江を求めてくるのを感じ、そんな余裕はなくなった。
舌を絡めて、思い切り吸い上げると、高耶が直江の背中に手をまわしてすがりつくようにしてきた。その高耶の耳元を指先でそっと刺激し、だんだん首筋を辿るように降りていく。僅かに唇を離すと、そこから漏れる吐息はわななくような熱さだった。
「な、おぇ……」
高耶の声も幾分掠れている。
直江は高耶のシャツを脱がせた。ボタンをはずすのももどかしい気分だった。
あらわになった胸の突起に手を這わせると、それだけで高耶は身を捩った。
直江は気遣いも忘れて、ほとんど獰猛にといってもいいような勢いで高耶の口腔を蹂躙した。飲みきれなかった唾液が、唇の端から落ちる。
唇を離し、その代わりに高耶の鎖骨の窪みを舐めあげると、高耶は脱力したように上気した目で直江を見上げた。
その合間に、高耶の下も脱がす。あらわになったそこは、少年の初々しさだった。
「な、直江……べ、ベッド、行こう……ここ、明るくて……」
高耶が切れ切れに訴えてきたが、直江はそのまま高耶の足を掴んで押し広げた。
「なおえっ!!」
「……全部、見せて……。高耶さん……。もう待てないんです……」
直江はそのまま高耶の股間に顔をうずめる。
「な、なにを……」
高耶がうろたえたように直江の頭を押しのけようとするが、直江はそのまま高耶を口に含んだ。先ほどまでの愛撫で半ば勃ちあがっていたそれを舌で舐めあげる。筋を舌で辿り、唇でしごくようにすると、高耶が喘ぐような声を漏らした。そのまま、括れをなぞるようにすると、高耶の身体が震えた。
「声、出していいんですよ……。気持ち、いいの?」
「なおえぇ、バカ、もう、離して……」
先端の、一番敏感な部分を刺激すると、高耶は身悶えた。
「もう、ダメ、ほんと、はなして……なおぇっ」
「出して……」
高耶はいやいやというように首を振って、直江の髪の毛を掴んだ。だが、直江はそれに構わず一際強く高耶を唇で追い上げていく。
「なおえぇ……あ、ああ、も、……で、出る……」
高耶の身体がしなる。
直江は高耶の放ったものを一滴残らず飲み込むと、ようやく顔を上げた。
高耶が潤んだ目で直江を見る。その唇にもう一度、軽く口付けした。
直江は自分の服をゆっくりと脱ぐ。それを、熱に浮かされたような顔で高耶は見ていた。
「……高耶さん。ね、ココ……に、入れても、いい?」
直江が高耶の後、開かれていない秘所に指を伸ばすと、高耶は恥ずかしげに目を閉じて、それでも頷いた。
ローションの助けを借りて、指を一本、もぐりこませる。
「つ、冷たい……」
「すみません……でも、すぐに熱くなりますよ……」
高耶の中は狭く、そして熱かった。
「な、なんでそんなもの……持って……」
かすれる声で尋ねてくる高耶に、直江は苦笑した。
「すみません、高耶さん……俺はいつだって、高耶さんが欲しかったんですよ……」
直江はゆっくりと高耶の後を馴らすようにほぐしていく。指をもう一本増やすと、高耶はうめいた。
「痛い……ですか?」
「だ、大丈夫……で、も……ヘンな感じ……。は……あ、ソコ……や、やだ、直江……なんか、ヘン……やめ……」
うごめかした指が、高耶のいいところを突いたのか、高耶はぴくん、と身を反らした。
「……いいんですね?ココ……」
「なおえ、こ、こわいよ……」
「大丈夫ですよ……こわくない……」
高耶の中はすっかり濡れて、ほぐれたようだった。
「力を抜いて……そう、ゆっくり呼吸して……いいですよ、ね、緊張しなくていいから……」
先ほどの高耶のポイントを、軽く刺激すると、高耶のそこがきゅうっと締まった。
「気持ちイイ?高耶さんの中、すごく熱い……高耶さん……愛してます……」
直江が耳元で囁くと、高耶が直江の背中に腕を回して、唇を寄せてきた。そこに、優しく口付ける。それから、瞼、頬、鼻にも唇を落とす。耳をそっと舌で擽って、それから、そっと額に口付けした。
「なおえ……」
名を呼ばれ、直江は高耶をひたと見つめた。
「高耶さん……」
指で少しずつほぐしたソコは、ようやく咲き始めた蕾のようだった。くちゅり、と音がして、高耶が恥ずかしげに身を捩る。
直江は指を抜いて、もう一度高耶に口付けた。
しっかりと抱きしめると、高耶も強く抱き返してくれる。
高耶の吐息を、肌で感じる。
直江は固くなった自身の先端を高耶の中に埋めていく。
高耶は苦しげな声を漏らしたが、直江はもう止まれなかった。
先端の部分をようやく納めて、動きを止める。高耶の額には苦痛の汗が浮かび、顔色が白くなっている。その汗をそっと拭うと、高耶が微笑んだ。
「なおえ……大丈夫……だよ……」
高耶の囁き。
そのコトバにあおられて、直江は一気に奥まで突き入れた。
高耶が直江の背に回した指に力が入り、爪が立てられる。高耶の口からは苦痛の声が漏れたが、直江はそのまま身体を動かす。
「高耶さん、高耶さん……」
高耶が掠れた喘ぎ声を上げる。
「なおぇ……」
直江が内部を出入りするたびに、高耶が声をあげる。
苦痛のためにか、いくばくか萎えてしまった高耶の前に手をやって愛撫すると、高耶は甘い声をあげ始めた。
高耶が感じるたびに、後の締め付けがきつくなり、直江を刺激する。
「……高耶さん、一緒に……」
二人で、同時に上り詰める。高耶の前が弾けると同時に、直江も高耶の中で果てた。
高耶は眠そうな顔で直江の肩に頭をこすりつけた。
その高耶の髪を、ゆっくりと直江は梳く。
ぐりぐりと、猫そっくりのしぐさで甘えられて、直江は高耶を抱きしめた。
「……からだ、痛くないですか?」
「んー、ちょっと……」
「シャワー、浴びられます?」
何もつけずに中で出してしまうなど、本来ならやってはいけないことだろうが、こらえきれなかった。
「……その、気持ち悪いでしょう?かき出さないと……」
高耶は顔を真っ赤にした。
「な、ナニ……」
「そのままじゃ、明日、困りますし。……私が、洗います……」
直江のコトバに、高耶は耳まで赤くして俯いた。
「じ、自分でやるってば!……うぅ……」
立ち上がろうとして、高耶は挫折したらしい。その場にぺたんとなってしまうのを、直江が抱き上げた。
「ね、やらせてください。……イヤ?」
直江がそう聞くと、高耶は顔を赤くしたまま黙り込んだのだった。
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