『タイムピース』

Writing by しろわに 様

 直江はプレゼントが大好きだ。……貰うほうではなく。オレに、贈るほう……なんだけど。
 いろんな理由をつけて、オレの元に運んでくるいろいろなもの。あんまりいろいろ買われるんで、オレはおちおちカタログも見ていられない。
 オレも、プレゼントは好きだ。……あげるほうが。もちろん、貰うのも好きだけど、貰ってばかりでは相手がいくら直江でも気が引ける。オレが好きなのは、ささいなちょっとした贈り物のほうなんだけど……。
 たとえば。
 ちょっと寒い日の朝、玄関で「行ってきます」の挨拶のときに、「寒いですから」なんてすっと直江の選んだマフラーを巻かれたり。
 オレがはしりのさくらんぼのニュースを見ていたら、その日のデザートがぴかぴかのさくらんぼだったり。
 ……値段的には直江のことだから、『ちょっとした』にはならないんだろうけど、まあ、直江だし、言ってもしかたがない、と思っているわけで。
 オレがちょっと戸惑って、でも嬉しくて「ありがとう」なんて言うと、直江のヤツはすごく嬉しそうに「どういたしまして」とか、「よく似あってます」とか言って笑うんだ。だから、まあ、いいか……なんて思っていた。
 
 しかし。誕生日とか記念日のプレゼントはちょっとチガウ。チガウって、もちろん、金額が、なんだけど。愛情は変わらないとは思うんだけど、さ。こちらの心臓が悪くなりそうなプレゼントは、ちょっと……。自分のプレゼントがしょぼい、なんてオレが落ち込んでしまう。いや、もちろん直江は喜んでくれたんだけど、さ。誕生日には肉じゃが作って、お祝いして、そ、そんで、夜は……いろいろ……だ、けど。金額的に、その……。
 そりゃ、プレゼントは金額じゃないけどさ。大学生に余計な気を使わせんなよ、コンチクショウ、って思ったりするんだ、やっぱり。
 だから……自分が直江の誕生日に出せそうな金額に上限を定めることにしたんだ。


 「……な?いいだろ、それで。いっつもお前、『そんなに高いものじゃありませんから』って言うんだから」
 今日の直江のお土産を見て嬉しそうに礼を言ってくれた高耶さんが、そう上目遣いに見つめて小首を傾げる。
 そのあまりの愛らしさに直江の胸は打ち震えた。さっきまでの『お帰りのキス』の名残で瞳が潤み、唇が濡れて光っている。その柔らかく肉感的な感触を思い出して直江は再び口付けしたくなるのを懸命にこらえた。あんまりしつこくすると、高耶さんから禁止令を出されてしまう。
 しかし、高耶さんのお言葉の内容は……。直江のちょっとしたプレゼントの新しい時計はお気に召したようだったが、それとこれとは別らしい。
 「……はじめてあった日から、ちょうど一年だもんな、今日は。……ご要望どおり、肉じゃがにしたぞ、今日は」
 そう、肉じゃがは直江のリクエストだ。「なにが欲しい?」と聞かれて、高耶さんの手料理とその後のムニャムニャ……は当然として、高耶さんからの毎日の『お帰りのキス』を取り付けて舞い上がっていたためか、少し反応が鈍くなっていた直江はそこでようやく高耶さんに聞き返すことができた。
 「ええと。今、なんと……」
 可愛らしいエプロン姿の高耶さんが腰に手をあてて、むう、と唇を尖らせる。そんな姿も可愛らしく、そのちょっと尖った唇に今すぐ……と妄想に入りそうになって、直江は慌ててそれを引き出しに納めた。
 「聞いてなかったのかよ、もう。だから、プレゼントの金額の上限を決めるんだって。すんごくトクベツで何年かに一度しかない!って記念日は別だけど、毎年あるのは……その、二万まで!で、それ以外は……そうだな、5千円以下……」
 「高耶さん、何を急に」
 「だって。お前……いつも高いもの買ってくるからさ。気にするなって言われても気になるだろ、普通。……オレはさ、お前がいてくれるだけで幸せだから。だから、その、プレゼントはお前がくれたから嬉しいんだから、あんまり高いものじゃなくていいっていうか、むしろオレのプレゼントと同じくらいの値段のほうが心臓に優しいっていう……」
 直江は高耶さんからのライターを見た。ジッポーのソリッドチタン。ついでに「吸い過ぎないでくれよ」とのど飴までつけて。しかしバイトもあまりに直江が淋しいだの高耶さんに会いたいだのと我がままを言ったためにほとんどしていない高耶さんには痛い出費だろう。直江は自分を反省した。
 「高耶さん、本当に気にしないでください。私は貴方に似合いそうだとなるとつい買い込んでしまうんです、だから高耶さんが気になさることはないんですよ。高耶さんがあんまり気になるんでしたら、この哀れな男にご褒美の口付けを下されば……」
 直江のその唇にはむぎゅっと口付けではなく高耶さんの掌が与えられた。
 「もうっ!だから、そうじゃなくって!オレが貰ってばかりじゃ嫌なんだってばー!!」
 高耶さんに唇を色っぽくなく塞がれた直江はもごもご言ったが、高耶さんは直江がしぶしぶ頷くまで許してくれなかった。
 そんなこんなでようやく玄関からリビングに二人は移動した。

 テーブルの上には高耶さんお手製の肉じゃがが鎮座していた。ほかにもサラダや煮付けが並んでいる。そのどれもが彩りも豊かで高耶さんが一生懸命バランスまで考えてくれたことがわかる。
 初めて高耶さんが作ってくれた手料理が肉じゃがだったのだ。ちょっと濃い目の味付けがご飯に良くあって、直江の贔屓目を別にしても素晴らしい。それを、直江が独り占めできていると思うと口元が思わずほころぶ。
 「肉じゃが、美味しそうですね。高耶さんの手料理が食べられるなんて夢のようです」
 「大げさだな、直江。……それはそうと……こんなことを聞いて、その、悪いとは思うんだけど……その、あの時計、幾らだ」
 高耶さんが恐る恐ると言った様子で聞いてくる。直江は高耶さんからのプレゼントのライターのおおよその値段を推定してほんの一瞬だけ考え、それから微笑んだ。
 「あの時計ですか?高耶さんが気になさることはありませんよ。二万ほどですから。高耶さんの先ほどのお言葉にも抵触しませんよね、このくらいなら」
 その微笑みに高耶さんもほっとしたように頷いた。
 「早く言えば良かったな。でも、ゴメンな、直江。せっかくの記念日なのに、うるさい上にみっともないこと言って……でも、すごい嬉しかった。ありがとうな、直江」
 「いえ、高耶さん。私も、嬉しかったですよ。何より、今日という日に貴方の隣にいてこうしていられることが。……だから、これからもずっと一緒に時を刻んで生きたいなと思って贈り物を時計にしたんです」
 高耶さんの腕にさっそく嵌めてあげた時計にそっと指で触れる。高耶さんが身を寄せてきて、その頭が甘える仕草で胸にこすり付けられ、そしていつもは凛然とした清冽な瞳が今は情欲を灯して直江だけを見つめている。
 「高耶さん……」
 直江がそう囁くと、高耶さんがその腕を直江の背に回した。
 「なおえ……」
 高耶さんお手製の肉じゃがが冷めるのは惜しいけれど。直江は引き寄せられるままにキスして、そのままそっと高耶さんを横たえた。高耶さんの瞳が強請るように直江を見つめている。どくん、と自分の心臓が跳ね上がるような気がした。その唇が、一つの名前を綴る。なおえ……と、もはや声にならない様子で綴られる、自分の名。
 直江は大切な大切な恋人の服のボタンをはずしはじめた。




 ……高耶さんに差し上げたパテック・フィリップの時計の値段が円ではなく、ユーロ換算してあったことはあくまでも秘密にしなくてはな、と、直江は眠る高耶さんの髪の毛を梳きながら心に誓った。




END




『わにの部屋別館』のしろわに様から20000HIT記念に頂きましたvvv
ご好意にひたすらの感謝をしながら、とっても嬉しくて、幸せです♪
20000HIT記念と言うことで、二万という数字を取り入れて書いてくださいました!!
幸せであま〜い二人に胸までいっぱいな幸福感を満喫していますvvv
懐かし(?)のゴージャス・直江の姿に、目も眩みそう!
直江さんにメロメロ〜♥
しろわにさんの小説を頂くたびに、高耶さん大好きなしろわにさんなのに、こうも直江スキーの心を揺さぶるのか感嘆の声をあげていますvvv
直江さんへの熱も上げています〜vvv

本当にvvvありがとうございましたっ!!

2004.6.10



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