Novel-Lunatic 4

Lunatic ⅳ

翌朝、高耶は橘家の朝食に混じりながら、家族の中の直江を改めて感じていた。
末の息子を構わずには居られない母親に苦笑を浮かべているのは、その当事者の直江と父親。そして優しい瞳でその情景を喜ぶように見ている次兄の義弘と、愛おしむように家族を見つめている長兄の照弘。彼らの妻たちは、久しぶりの家族団欒だからと言って、姿を見せないが…。
それは、幸せでありながら、高耶にとっては…少し胸が痛んだ。
母親が三十を越した息子を構うのも、自分が直江に背負わせた過去を持って生まれたせいで…幼少時代に辛い思いをさせたせいだろう。そして、自分に逢ってからの長い失踪…。
原因は全て自分にあるのだと直江に言ったら怒るだろうが、そう思わずにはいられなかった。
「高耶君。口に合わないかい？」
義弘に声をかけられて、高耶は慌てて首を横に振り表情を意識して和らげた。
「いいえ。…ただ、昨日の夜屋台で色んな物を食べ過ぎてしまったのかもしれません」
そう箸の進まない言い訳をしてみると、義弘は笑った。
「高耶君は、屋台の食べ物とか好きなんだ。子供の頃の義明は、そう言った物にあまり手を出さなくて、照弘兄さんは喜ぶ顔が見たくて連れ出すのに帰ってくると溜め息を付いた事があったよ。衛生的によくなかったと義明に言われたらしくてね。…可愛気、無いだろう？」
その言葉に反応を示したのは、直江と照弘の二人だった。
「義弘兄さん！」
「義弘！」
抗議の声を笑顔で受け止めながら、義弘は高耶に耳打ちして他者に聞こえないように続けた。
「でも、君と居ると義明が可愛く見えるよ」
高耶は慌ててその言葉の真意を探る為に義弘の表情を見ると、嬉しそうに微笑んでいた。自分たちの関係を分かっていて、それでも見守っていてくれているのだという…義弘の想いが感じられて…高耶は思わず俯いてしまう。
「義弘兄さん！高耶さんに何か、言ったんですか？！」
いつも冷静で家族に声など荒げた事のない義明が戸惑いながら責めてくる…滅多にない光景に思わず、照弘と義明は吹き出してしまった。
「アイツの過去の笑話とか聞きたかったら、いつでも教えてあげるよ。…義明の居ないところでね。高耶君」
笑いながら話し掛けてきた義弘に直江は慌てて、そんな状況をこれでもかと言うほど照弘も笑っていた。高耶も思わず、笑みが零れていた。
状況が掴めない橘の両親は、不思議そうな顔をしていたが。
「やっぱり、食事が終ったらすぐに帰りますから」
少し機嫌を損ねたように直江が呟く。
更に三人の笑いを誘ったのは、言うまでも無い。

「また、来てくださいね」
橘の母がおっとりとした口調で高耶に話し掛けてきたので、高耶は頷いた。
「本当にありがとうございました。色々と…。…義明さんの都合に合わせて、お言葉に甘えてお邪魔します」
挨拶を交わす横でなにやら直江は、二人の兄に遊ばれているようだった。少し淋しい気もするが、滅多に見れない光景に高耶は瞳を細めて微笑んでいた。
直江が誰かの弟だったりする…。正直複雑だが、新鮮でいて…もっと見てみたいとも思う。
「高耶さん、渋滞にはまると面倒ですから、早めに出ましょう」
自分に言っているはずなのに、それはこれ以上構うなと兄たちに言っているようだった。
「運転手に任せるよ」
そう言って高耶は助手席のドアを開けたときに、母が思いだして小さく叫びその腕を止めた。
「良かったら持って帰って欲しい物があるの。帰ってから二人で食べて欲しいと思って…。ちょっと、待っていて下さいね」
慌て玄関に戻る母親に直江は微笑みを向けていた。
「そうだ。義明。…今度、お前のマンションに遊びに行っても良いだろう？」
「照弘兄さん…。突然なんですか」
「大丈夫だって。二人の邪魔になるほどは、長居はしないから」
直江はその言葉に思わず…固まった。
──バレてる…。
きっとそう思っているんだろうなと、高耶は含み笑いを零した。先程、義弘が洩らした時に、高耶は多分照弘も分かっているのだろうと思っていた分余裕があった。
「…その…」
直江が聞き直そうとしたとき、母親が戻って来て…立ち消えになった。
「良かったら、漬物なんですよ。お口に合うと良いんだけれど」
そう言って差し出された紙袋を、高耶は頭を下げて受け取り車に乗り込む。そして、直江も車に乗り込もうとした時に、照弘が直江に耳打をした。
「…お前も少しは…場所を考えろよ。誰に見られているか分からないからな？…両親が見たら、心臓が止まってしまうかもしれないからな」
絶句をした直江に更に追い討ちをかけた。
「…昨夜みたいな事は…な。高耶君には言わないから、安心しろ」
固まりきった直江の背を叩きながら、今度は大きな声で「気を付けて帰れよ」と笑った兄に直江は曖昧な笑みで応える。
見られた事が…高耶にバレたら大変だ…と、内心冷や汗を滝のように流していた。
なんとか車に乗り込んだ直江はハンドルを握って溜め息を零す…。
「どうした？直江…」
「いえ、なんでもありません。…帰りましょうか」
「そうだな」
そして、車は橘の家を後にした。

直江が、立ち直るには…少々時間がかかった…とか…。

END

う…、、、直江けちょ風味で終ってしまいましたね…(^^ゞ
色々とラストは考えていたのですが…。
帰りの佐野サービスエリアで、高耶さんにうさぎを見せてあげる直江とか←ほのぼのラストバージョン…
橘の母の手土産が自家製の美味しい沢庵で…、帰り道車の中に匂いが充満してしまい苦しむ二人…。それを口実に直江が高耶さんを、…インター近くの某…場所に連れ込むとか(笑)
でも、余分な気がしたので、あっさりと…直江けちょ……？！
何かが、違うかも…(大汗；)

リクエスト頂いた、高虎さんvvv
こんなんで、許して頂けるでしょうか…m(__)m

2004.7.27

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